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『ソードアート・オンライン―DIVE TO STAGE』- 総合演出 児玉明子 INTERVIEW

©2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project
©SAO Stage Project

「アニメの世界を劇場で体感できる
新しいライブエンターテインメント」

今再び、アインクラッドの旅路へ ―――――
「ソードアート・オンライン -DIVE TO STAGE-」が2022年11月8日より東京国際フォーラム ホールCにて上演となります。
“DIVE TO STAGE”と銘打たれたサブタイトルの通り、本作はテクノロジーやパフォーマンス、ギミックを駆使したライブ・エンターテインメント。
今作の総合演出を担う児玉明子さんに話を聞きました。

『SAO』の世界にお客さんもダイブしてもらいたい

まずは、『SAO』ステージ化の出発点から聞かせ下さい。

 
 いわゆる演劇というアプローチではなく、エンターテイメント性の高いショー的な構成で、アニメのセリフや音楽にあわせ俳優がパフォーマンスを行うことで『SAO』の世界をステージで描きたいというコンセプトをうかがいました。その上で、原作小説を通読し、アニメを拝見させていただきました。

原作小説とアニメの印象について、またステージ化する上でどういったところにポイントを置こうと思われましたか?

 
 とても魅力あふれる作品で、「どういうステージにするかな?」とイメージを膨らませながら原作小説やアニメに触れて行ったのですが、とにかく設定が秀逸でした。ゲーム内での死が現実の死につながるシリアスな状況のなかキリトとアスナの関係が築かれていくアインクラッド編の物語の要素を、ステージで出来得る限りのギミックを駆使して描くことで、それらが上手くリンクしたらきっと面白くなるんじゃないかなと思いました。
 アニメや小説という媒体では、本当にその世界にダイブすることはできないけど、劇場で「生」で上演することで一緒の空間にいる感じを作ることができるし、今回「–DIVE TO STAGE-」とあるように『SAO』の世界にお客さんもダイブしてもらえればなと思って構想を練りました。

脚本を作られる上で拘った部分はありますか?

 
 一般的な言葉を発する演劇と異なるとはいえ、ストーリーを伝えるためにはセリフは必要なわけで、そのセリフをどう持ってきてどうパフォーマンスしてもらうか。そのバランスが難しかったですね。ひたすら、アニメの声に対してお芝居するだけでは飽きてしまう部分もあるし、エンターテイメント性の高いショーとして成立させたかったので、パフォーマンス、主題歌、キャラクターソング、アクションといった要素をどこに組み込んでいくかは気を遣いました。

アニメ声優さんの声と舞台上のキャストの演技の融合に関しては、どのような感触を抱かれていますか?

 
 実際に自分が観ていたアニメの声が流れて、それに対して舞台キャストがいるってことがまずはすごく不思議な感じがしました。この「不思議」はすごくいい意味で捉えていて、声優さんの声があることでアニメを観ていたときのことがダイレクトに思い出されるし、それと共にリアルな存在としてのキリトなり、アスナがそこにいる。それが「–DIVE TO STAGE-」の醍醐味になるのではないでしょうか。また、キャストが声を発しないということには、様々な可能性が秘められていますね。これは脚本を書いている時点から思っていたことで、たとえば、普段はセリフを言いながらお芝居をするわけですが、そこが声優さんのセリフになることで様々なパフォーマンスやステージ表現を加える余地が生まれます。こうした試みは私自身も初めての体験でもあり、挑戦でもありますね。

キリト役の松原凛さん、アスナ役の佃井皆美さんについてはいかがですか?

 
 二人とも身体能力がすごく高くて、特に剣戟のアクションには目をみはるものがありますね。さらに未経験ながら、エアリアルのメインパフォーマーのG-Rocketsさんと組んでエアリアルをパフォーマンスしたり、ほかにも様々なアクロバットをこなしてくれてます。 もちろんそれだけでなく、お芝居やステージング(キャラクターの想いや行動を振付で表現)がきちんとできているので、声優さんによるセリフと松原さん、佃井さんの高い表現力があいまってキリトとアスナが本当に実在するかのように感じています。
キリト役 松原凛・アスナ役 佃井皆美。

俳優の身体能力の高さと最新のテクノロジーで魅せるアクション
さらにアクロバットやエアリアルによる圧倒的な身体パフォーマンス

『SAO』といえば、剣を用いたアクションも見どころですが、ステージで表現する上での拘りがあればうかがえればと思います。

 
今作ならではの拘りのひとつとして、キリトとアスナにはビジュアルポイ(※)のLEDチップを埋め込んだ剣を使ったアクションシーンがあります。LEDチップを埋め込むことで剣の動き敵の挙動にあわせた様々なエフェクトを加えられますので、ビジュアル的にはかなり派手な演出になります。
 ボス戦のモンスターはLEDパネルなどを使い3D映像で表現しますので、これも拘りポイントですね。映像に映し出される敵と戦う演出はもう目新しいものではないですが、LEDに映し出される3Dのモンスターと戦うというのは、私には初めての試みなので期待しています。
 キリトとアスナのほかにも身体能力の高い俳優陣がそろっていますので、剣を用いたアクションだけでなく、バンジーを使った上空からの攻撃など見ごたえのあるアクションをお観せできると思います。
ポイとは、紐の先についた重りがついた道具。高速で回したり、動かすことで、空間に光の軌跡を浮かび上がらせることができる。ビジュアルポイは重りにプログラム可能なLEDを仕込ませ、文字や画像など、身体表現とともに幻想的で美しいパフォーマンスを行うことができる。
天井から吊るしたスリング(ゴム)と体を繋ぎ、逆バンジーの状態で高く跳ね上がる。無重力かつ人間離れした圧巻のパフォーマンスを見せる。

映像演出でも最新のテクノロジーを活用されているとのことですが、手応えはいかがでしょうか?

 
 今の映像技術は10年前と比べると、ものすごく進化しています。最新のプロジェクターで投影すれば、普通のスクリーンでも大きく映すと「おおっ!」とかなりの驚きがあるかと思いますが、今回はLEDスクリーンでさらにハッキリと映し出すことができるし、ビジュアルポイや3D映像をマッチさせて演出するアクションシーンはかなりの迫力になると思います。LEDパネルの大きさも私がこれまでにやった舞台は最大の規模になると思うし、それこそ私自身が早く観たいと思うほどですね。

衣裳や造形、小道具については?

 
 これもファンの方々には気になるところだと思いますが、これまでご一緒した信頼できるスタッフの方々にお願いしていて、各セクションの拘りの詰まった完成度の高いものができあがっています。いわゆる「2.5次元舞台」というジャンルで培われたキャラクター再現のノウハウが凝縮されたものになっています。

先ほども話題に挙がりましたが、エアリアルやポイを使った演出について、今一度詳しくお聞かせください。

 
 エアリアルはシルク・ド・ソレイユに代表されるアクロバティックな空中パフォーマンスの印象が強いのですが、実はアクションだけじゃないんですよ。愛しあう二人とか絆といったエモーショナルな表現をエアリアルで行うこともあって、実際、ペアダンスや競技ダンスと同様にエアリアルを演じるパフォーマーはカップルであることが多いのですが、今回、キリトとアスナの絆と運命的な結び付きをエアリアルで表現してみました。
 実現するうえでは経験豊富なG-Rocketsさんの力が発揮されていて、単なるパフォーマンス自慢ではなく、お芝居の中にきちんと組み込まれたエアリアルで、シーンをよりエモーショナルに魅せることができていると思います。
エアリアルとは、サーカスなどでも行われる空中演技の演目。シルクやリボンなどが使われるが、今回の舞台では、芝居と融合させることにより登場人物の心情表現も抒情的に描き出す。

ポイについては?

 
 ポイ演出協力のYutaさんとは7年くらいご一緒してるのですが、とても面白い発想をされる方で、今作でも色々なアイデアを頂いてます。先ほどお話した剣のエフェクトだけでなく、アスナが料理を作るシーンでもビジュアルポイを使って食材を表現するなど日常的な場面で活用したりと効果的なギミックになるかと思います。

音楽面についてはいかがでしょうか?

 
 ファンの皆様にとって思い入れの深いアニメの音楽を今回のステージで使用できるのはとても大きなことで、アニメのセリフと再現度の高いキャラクター造形、そしてアニメの楽曲が組み合わさることで『SAO』の世界を立体的に描くことができています。
劇伴はもちろん、オープニング&エンディングテーマをはじめ、キャラクターソングも取り入れることで、様々なシーンが楽曲の力とあいまって素敵な仕上がりになりました。
 楽曲に合わせたシーン作りは振付担当の西川卓さんにお願いしてまして、ダンスの振付という範疇に収まらない様々な表現をしてくれてます。ファンだったら間違いなく観たくなるような瞬間がいくつも出来あがってきてワクワクします。
多彩な振り付けとステージングにより、数ある名曲、名シーンたちが表現される中「これをダンスで?」と驚くような場面も。

西川さんにはどういったオーダーを出されたのでしょうか?

 
『SAO』の世界から抜けられない恐怖心、苦しみ、その中でも希望を失わないキリトやアスナの想いといった感情面をステージングで表現できないか、ということですね。
 通常の演劇ではこうした感情面はお芝居で描きますが、今作では楽曲にのせてステージングで表現することで、より印象的に且つショー的な観やすさ、面白さにつながっていると思います。

それでは、最後にメッセージをお願いします。

 
『ソードアート・オンライン –DIVE TO STAGE-』は、アニメの世界を劇場で体感できる新しいライブエンターテインメントです。
普段、舞台をご覧にならない方でも『SAO』ファンならきっと楽しんでいただけるものになってますし、舞台や演劇が好きな方にも「こういう表現があるんだ!」と新鮮さを感じてもらえるものになっていますので、ご期待ください!
  • 児玉明子 Akiko Kodama

    東京都出身。慶應大学法学部政治学科卒業。
    大学在学時より宝塚歌劇団に嘱託採用され、座付きの脚本・演出として在団。
    2009年には、一年間、文化庁の新進芸術家海外研修制度にて、カナダのケベック州・モントリオールへ演劇留学し、世界的に著名な演出家、ロベール・ルパージュなどの稽古場で研修。
    帰国後、宝塚歌劇団を退団し、美内すずえ×ガラスの仮面劇場「女海賊ビアンカ」、ライブ・スペクタクル 「NARUTO-ナルト-」シリーズ、舞台「デルフィニア戦記」シリーズ、少女文學演劇「雨の塔」、「王妃の帰還」の脚本・演出、少女☆歌劇 レヴュースタァライト−The LIVE−シリーズ、ミュージカル「黒執事」-Tango on the Campania-、ミュージカル『アメリ』、「ELF The Musical」などの演出を手がける。